20071113

shinen

金沢の兼六園で一人散策をしていた時、
着物を綺麗に着こなしたお婆さんに声を掛けられました。


「ちょっと撮って下さらない?」
「いいですよ」

ちょっと恥じらいながら
「インスタントカメラなんですけど...」と。
「背景はどの辺にします?」
「お任せしますので」

滝や池をバックに2、3枚撮影。
「撮りますよ〜はいチーズ」って懐かしいフレーズ。

撮影後に彼女から申し出がありました。
「良かったら、お撮りましょうか?
 後日、お送りしますので。」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そうですか、ありがとうございました。」

去り行く、品の良いお婆さん。
その後ろ姿が遠ざかるにつれ、自責の念が強くなっていきました。

発送などのお手をわずらわせるのも...と安易に断ったのですが、
彼女にとっては現像された写真を手紙と共に送るのが
旅の後の楽しみだったんじゃないかと。

池に掛かった石橋のから身を乗り出し
餌をくれると思って寄って来た鯉達を眺めながら
嗚呼、僕は思慮が足りなかったと反省。

鯉の開け放った大口には真っ黒な闇が覗いていました。


お婆さん繋がりで話をもう一つ。
....上京して2年くらいの頃でしょうか。

駅から自宅への帰り道でお婆さんが倒れていました。
「大丈夫ですか?」と近寄るとちょっと頭から血が出ています。

声に反応し起き上がったのですが、
すぐさま後ろに倒れ、頭からコンクリートに着地。鈍い音。

どうやら泥酔している様子で意識も朦朧としています。
道にも迷っているみたいなので近くの駅まで送ることにしました。

お婆さんに肩を貸し、駅までノロノロと進みます。
重い。10分程の道のりが果てしなく遠く思えました。
彼女の荷物は何やら不可思議で
バックから針金ハンガーが飛び出したりしています。

お婆さんは少しずつ身の上を語り出しました。

「今日ね、私、男に振られちゃったのよ。
 凄く修羅場だったのね。不倫だったし...
 でも好きだったから良かったのよ。
 いなくなると寂しいわよね。飲み過ぎちゃって...」

僕の腕はプルプル言い出していたので
表面上は愛想良く、内面では右から左に受け流していました。
30分程経過した気がするのにまだ駅には着きません。

ちょっと一休みしようかと思ったその時、
「今日ね、うちに誰もいないのよ。寄って行かない?」

とキラーパスが飛んで来たんです。きっと名字は中田。

腕の震えは治まり、足に力が入りました。
火事場の馬鹿力です。ある意味。
今までの二倍の速度で駅まで到達すると言葉少なに別れを告げました。


東京の最深部を走るメトロの駅へ続く
ポッカリと開いた入り口には真っ黒な闇が覗いて.......

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